1 はじめに
離婚訴訟において、離婚が認められるためには、民法が定める離婚事由に該当する必要があります。
このことは、前回の記事(どんな事情があれば離婚できる? – 離婚事由(民法770条)とは)で述べました。
では、例えば夫婦の一方の不倫を原因として婚姻関係が破綻した場合に、その原因を生み出した当事者(つまり不貞をした側)から離婚請求をすることは許されるのでしょうか。
自分が不倫をして婚姻関係を破綻させたにもかかわらず、さらにそのことを理由とする離婚請求も認められるのは、相手があまりにかわいそう、というのが素朴な感覚かなと思います。
従前の判例も、離婚事由につき専ら又は主として責任のある一方の当事者(これを「有責配偶者」といいます。)からの離婚請求について、もしそのような請求が認められるとすると、相手は「踏んだり蹴ったり」であるから例外なく許されない、という立場を取っていました。
しかし、現在の判例は、有責配偶者からの離婚請求は許されないとの上記原則は維持しているものの、有責配偶者からの離婚請求であっても、例外的に認められる場合がある、という立場を取っています。
以下では、有責配偶者からの離婚請求がどんな場合に認められるかについて、解説していきます。
2 有責配偶者からの離婚請求が認められるための要件
判例は、有責配偶者からの離婚請求が認められるための要件として、
① 夫婦の別居が相当の長期間に及んでいること
② 夫婦の間に未成熟子が存在しないこと
③ 離婚により相手方が極めて苛酷な状態におかれる等の事情がないこと
を挙げています。
これは、必ずしも①~③の全てが満たされていなければ離婚請求が認められないというものではなく、①~③の事情を総合的に考慮して、当該請求が信義誠実の原則に照らして許されるか否かが判断されると解されています。
もっとも、これだけでは分かりにくいので、各要件について詳しく説明します。
3 ① 夫婦間の別居が相当の長期間に及んでいること
一般的には、8~10年間の別居があれば、別居が相当の長期間に及んでいると判断されることが多いです。
しかし、実際の裁判例は、単純な別居期間の長短だけではなく、
・両当事者の年齢
・同居期間との対比
・婚姻関係破綻の原因、有責性の程度
・未成熟子の有無、離婚した場合の相手方の生活状況
などの様々な事情を考慮して、総合的に判断する傾向にあります。
したがって、別居期間が長くても離婚請求が認められない場合があること、他方で、別居期間が短くても離婚請求が認められる場合があることに注意が必要です。
4 ② 夫婦の間に未成熟子が存在しないこと
未成熟子とは、未成年に限らず、親から独立して生計を営むことができない子をいいます。
未成熟子に当たるか否かは、離婚によって子の家庭的・教育的・精神的・経済的状況がどれだけ悪化するかといった観点から、実質的に判断されます。
有責配偶者からの離婚請求が認められるためには、原則として、夫婦の間に未成熟子が存在しないことが必要ですが、判例は、前述のとおり①~③の事情を総合的に考慮しますので、夫婦間に高校生の未成熟子が存在する場合において離婚請求を認めた判例も存在します。
5 ③ 離婚により相手方が極めて苛酷な状態におかれる等の事情がないこと
この要件は「苛酷条項」とも呼ばれ、離婚により相手方が精神的・社会的・経済的にどのような状況におかれるかを考慮して判断されます。
そしてその判断は、
・相手方の生活状況・収入状況
・有責配偶者が相手方に相応の生活費(婚姻費用)を給付してきたか
・離婚後の給付が具体的に予定されているか、その履行が確実か
など、経済的事情の検討が中心となります。
6 さいごに
以上より、判例は、①夫婦の別居が相当の長期間に及んでいること、②夫婦の間に未成熟子が存在しないこと、③離婚により相手方が極めて過酷な状態におかれる等の事情がないこと、という要件を挙げてはいるものの、その実際の判断は、「当該離婚請求が信義誠実の原則に照らし許されるか否か」という総合的な判断であることがお分かりいただけると思います。
したがって、「原告は有責配偶者であるから離婚請求は信義則に反して許されない」という被告の主張に対して、離婚請求の原告としては、
① 別居が相当の長期間に及んでいること
② 夫婦の間に未成熟子が存在しないこと
③ 離婚により相手方が苛酷な状態におかれるとはいえないこと
を中心に、離婚請求が信義則に反しないといえる事情をできるだけ多く主張立証していく、ということになるでしょう。
離婚をしたいけど自分は有責配偶者かもしれない、離婚請求が認められるのか分からないといった場合は、ぜひ一度相談いただければと思います。
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