1 はじめに
日本の法制度において、離婚する方法はいくつかありますが(前の記事「離婚の種類(協議・調停・審判・裁判)とそれぞれの流れ」もご参照ください。)、それらの方法は、大きく
① 夫婦間の合意に基づく離婚(協議離婚・調停離婚)
② 裁判所の関与に基づく離婚(審判離婚・裁判離婚)
の2つに分けることができます。
①夫婦間の合意に基づく離婚では、一方の不貞行為やDVなどの特別の事情がなくても、夫婦間の合意がある以上、離婚をすることができます。
一方、②裁判所の関与に基づく離婚(裁判離婚)では、民法の定める離婚事由(民法770条各号)が認められない限り、離婚をすることができません。
(なお、審判離婚は、離婚条件の一部に争いが残っており調停成立には至らないものの、離婚自体には双方同意しているというような場合に用いられるものですので、通常、離婚事由が問題となることはありません。)
本記事では、いかなる事情があれば裁判離婚が認められるのか、民法の定める各離婚事由について、解説していきます。
2 不貞行為(民法770条1項1号)
(1)定義
不貞行為とは、配偶者(夫又は妻)のある者が、自由な意思に基づいて、配偶者以外の者と性的関係を結ぶことをいいます。
つまり、配偶者以外の者との性的関係を結んだとしても、それが婚姻前のことであれば、不貞行為にはあたりません。
また、自由な意思に基づかない性的関係(例えば、配偶者のある者が強制性交の被害者となった場合など)も、不貞行為にはあたりません。
(2)立証方法・注意点
配偶者が不貞行為に及んでいるとしても、その事実を証拠によって立証できなければ、裁判上の離婚は認められません。
そして、不貞行為は、第三者から認識できないところで行われるため、その性質上、不貞行為が存在することを直接証明する証拠(直接証拠)を得ることが難しく、その立証は困難と言えます。
そこで、不貞行為の立証として重要となってくるのが、不貞行為が存在することを窺わせる事実を証明する証拠(間接証拠)です。
不貞行為の間接証拠の例としては、
・2人でラブホテルに入る(もしくは出る)写真や動画
・互いの身体(胸、腰、手等)を触っている写真や動画
・単なる友人関係を超えるような内容のLINEのやり取り
などが挙げられます。
もっとも、これらの間接証拠から不貞行為の存在が認定されるか否かは、当該間接証拠の内容・性質及び裁判官の経験則に左右されます。
したがって、不貞行為の立証においては、より強い間接証拠を、より多く収集しておくことが特に重要です。
3 悪意の遺棄(同項2号)
(1)定義
悪意の遺棄とは、正当な理由なく、夫婦の同居義務・協力義務・扶助義務(民法752条)に違反することをいいます。
例えば、夫婦の一方が、同居していた家から突然出て行き、何ら妻子の面倒を見ず生活に必要な費用(婚姻費用)も一切支払わないような場合が挙げられます。
正当な理由の有無は、別居の目的、別居後の相手方の生活状況、生活費の送金状況、別居期間等を総合考慮して判断されます。
(2)注意点
不仲で別居している配偶者に対して生活費を送ることについて、一定の心理的抵抗を抱くことはある意味当然のことといえるでしょう。
しかし、前述のとおり、民法は、協力義務・扶助義務(同法752条)を定めていますので、2人がまだ夫婦である以上、収入が多い者が、収入が少ない者に対し、生活費を支払い夫婦間の生活の格差を是正することは、民法上の義務ということになります。
したがって、その義務に違反し、悪意の遺棄に当たると認定されてしまうことを避けるためにも、別居中の配偶者に対して生活費を全く送らないということは避けるのが賢明です。
4 3年以上の生死不明(同項3号)
文字どおり、3年以上生存も死亡も証明できない状態が継続していることをいいます。
生死不明となるに至った原因は問われません。
5 回復の見込みのない強度の精神病(同項4号)
(1)定義
強度の精神病とは、夫婦の協力扶助義務(同法752条)を果たすことができない程度の精神障害をいいます。
例えば、重度の統合失調症等が挙げられます。
(2)立証方法・注意点
配偶者が強度の精神病にかかっており、回復の見込みがないことについては、医師の診断によって立証していくことになります。
もっとも、近年においては、医療の発達により、「回復の見込みがない」という診断を得ることは困難となっており、配偶者に精神病がある場合には、
後述の「婚姻を継続し難い重大な事由があるとき」(同法770条1項5号)という離婚事由に該当するとして、離婚請求をしていくこととなります。
6 婚姻を継続し難い重大な事由(同項5号)
(1)定義
婚姻を継続し難い重大な事由とは、夫婦関係が破綻しその回復の見込みがないことをいいます。
しかし、同号の文言が前述の1号から4号までと比べて極めて抽象的であることから分かるとおり、具体的にどのような事情があれば夫婦関係が破綻しているといえるのかは、裁判官の自由裁量によって決められることになります。
そして、その判断においては、夫婦生活にあらわれた一切の事情(暴行・虐待、重大な病気、性交不能などの事情)が総合考慮されます。
(2)立証方法・注意点
前述のとおり、夫婦関係が破綻しており、その回復の見込みがないといえるか否かは、様々な事情を考慮して判断されます。
例えば、夫からの激しい暴力が継続的になされているDV事案などでは、その怪我の診断書のみをもって、夫婦関係の破綻があると認められる場合もあるでしょう。
しかし、そのような場合を除き、ある一つの事情が認められたからといって直ちに夫婦関係の破綻が認められることはまれであり、通常は、長期間の別居をはじめ、様々な夫婦の不和を示す事情を主張立証していくことになります。
したがって、ここでの立証においても、不貞行為(1号)の立証と同様、より強い間接証拠を、より多く収集しておくことが重要になります。
7 さいごに
以上のとおり、裁判離婚が認められるためには、法定の離婚事由が存在することが必要となります。
さらには、それらの各事由の存在について、証拠によって立証しなければならないというハードルがあります。
したがって、離婚を検討している方は、早い段階で専門家に相談し、具体的事案に合った離婚事由を主張するとともに、関連する証拠の収集を行うことが大切といえます。
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